ヤマセ


 やませ・山背・山瀬・闇風・偏東風・病せ

気象の事典(新版):本来は山を越えて吹いてくる風の意味で,フェーンの性質を持つ風を指した言葉であるが,現在は初夏から盛夏にかけて北日本(特に三陸地方)に吹いてくる冷湿な北東風を指すことが多い。

 私見

◎東北地方の北部太平洋側では,夏期冷湿な東よりの風が続き動物や植物に病気を蔓 延させ,さらに人間にとっては,持病(神経痛や古傷等)の悪化やじめじめして不潔となり消化器系の病気(寝冷えも含む)を多発させる風を「ヤマセ」と言っているふしもある。また,春先の偏東風による大雪についても「ヤマセ雪」ということがある。

◎このヤマセも山を越えると「小保内だし」となり,宝風(農作物にとって)に変身する。

しかし,山を越えても最上川の船頭さんが唄っているように「・・・ヤマセ風だ よあきらめろ・・・」と,よくない風に使われる。これは酒田に用事があって最上川を下って来たが,帰る日になって「向い風(東〜南東)が強くて船は出せないので,早く帰りたいだろうが今日はあきらめろ」と言う意味だそうだ。(船下りの船頭さんの話)。

◎また紀伊半島のある漁港では,「今日はヤマセで海が荒れて休漁だ」というように使用するところもあるらしい。

◎本来ヤマセは,日本海側を南下する船にとって順風と言う意味で「山背風」と呼んでいたが,時間の経過と共に各地で色々な意味で使用されるようになったのではないかと言う説も有力である。つまり,現在「ヤマセ」ということばは,山の背にこだわらず,東北地方北部では悪さをする東風についた名前のようである。ヤマセをカタカナで表すようにしたのは,語源についてもっと調べてみる必要がありそうだ。1994年ヤマセシンポジュウム(久慈市)に気象研究家根本順吉氏が発表した「ヤマセを追うー古文献探索の進展」を一読せられたい。

次に、

東北地方の「ヤマセ」について各研究者の定義についてまとめてみると。

1.   下層雲を伴って吹く冷湿な偏東風(東北大学川村宏)

2.   6月から8月に吹く霧を伴う海風で,風向は北東から南東である(東北農業試験場 井上君夫)

3.   梅雨期に北日本の太平洋側に吹く冷湿な偏東風(元函館海洋気象台長和田英夫)

4.   オホーツク海高気圧の存在とその南または南西象限での東よりの風(数値予報課永田雅)

5.   オホーツク海上空にブロッキング高気圧が存在し,地上ではオホーツク海に優勢な高気圧が停滞する北高型の気圧配置が持続し,東北地方太平洋沿岸で東よりの風に伴う著しい気温低下が見られること(筑波大学 工藤泰子)

 以上のように局地風的定義やシノプティック・スケール(〜数千キロ)の空間・時間を持つ事象としてとらえた定義等いろいろある。

 実際に調査研究をした際の一例として,1984年に昆幸雄(元盛岡地方気象台長)が「ヤマセの研究」のなかで定義したものを参考に述べると次のようになる。

 青森・八戸・宮古の3気象官署の6〜8月における卓越風向,低温出現率,農作物とのかかわりあいを参考に

1.   3地点いずれかの卓越風向が北から南南東の偏東風である

2.   日平均気温の3点平均平年偏差が−1℃以下である

3.   2日以上持続する

 このような条件にかなう日を北部3県の「ヤマセ日」とし,偏差−3℃以下を強いヤマセ日とした。

したがって低気圧単独による一過性の偏東風や夏型における海陸風日は除かれることになる。

なお,東北地方全域を対象とするときは以上の条件に,さらに気圧配置から期待される南部3県の卓越風向が南〜西にならない日とした。

 …………ヤマセ発生のメカニズムに続く………